信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

28. うつ病について

2000.10.4 小島 

1.概念

抑うつ気分変調、思考抑制、精神運動抑制を主症状とする内因性の精神病である。発病年令は20才代が最も多く、30歳代がこれにつづくが、40〜50歳代になって発病する場合も多い。

2.病因

@遺伝的要因
A生化学的所見→モノアミン欠乏仮説
 カテコールアミン(特にノルアドレナリン)がその受容部位において、うつ病では欠乏しているとするカテコールアミン説、脳内セロトニンの活性が低いとするセロトニン仮説など。
B体型と病前性格
 社交的で、親切、善良な循環気質の肥満型人間。熱心、凝り性、几帳面などの執着性格メランコリー親和性性格。
C心理社会的要因
 転勤、昇進、転居、病気、友人の死亡などが発症のきっかけとなる。一度発症するとその後は誘因なしでも時折再発するようになる。

3.症状

『うつ状態』
 自分が病気らしいという病感を持つことがある。また、症状は朝方に悪いという日内変動をみる。

@感情
 気分は抑うつで、意気消沈し表情は沈うつ、不活発である。
A思考
 思考は進まず(思考制止)、物事を悲観的に考える。自分を過小に評価し、些細なことで自分を責め自殺念虜をしばしばみる。罪業、貧困、心気妄想に至ることもあり、これらはうつ病の三大妄想である。心理学的には了解が可能な二次妄想である。
B意欲
 活動性は低下し、興味がわかない。意欲がわかず制止が激しいものを抑うつ病性昏迷という。
C身体症状
 入眠困難で熟睡ができない(睡眠障害)。早朝覚醒もみられる。食欲減退、そのために体重減少などもきたす。全身倦怠、頭重感。

4.分類

a.双極型
 躁病相とうつ病相の両方を周期的に繰り返すもので遺伝的背景がつよい。発病は20歳代に多い。
b.単極型
 躁病相かうつ病相のいずれか一方をくりかえすもの。30〜40歳代に好発する。単極性のなかで40〜50歳代に発病するものを初老期うつ病あるいは、退行期うつ病とよんでいる。退行期うつ病は若い頃の発病者に比べて心気的な訴えが多く、また、症状は長引いて治療に抵抗する場合が多い。
 なお、その他に精神症状の出現が乏しく、変わりに身体症状(多くは自律神経症状)ばかりが目立つうつ病があり、仮面うつ病と呼んでいる。

5.経過と予後

 うつ病相の持続は躁病相より長く、躁病相が1〜2ヶ月で回復するのに対して、うつ病相は数カ月以上に及ぶものが多い。病相は繰り返すことが多いが、各病相の間は欠陥を残さずに回復する。予後は良好であるが、高齢者の予後はあまりよくない。

6.注意事項

 うつ病相ではしばしば自殺念慮がみられるが、自殺はうつ病相の極期よりも病 初期や回復期にみられやすい。決断力がにぶっているので、重要事項の決定は病 像がよくなるまで延期させる。また、患者を強く励ましたり、叱ったりするのは禁忌である。自責感をさらに強くして、自殺の危険性をさらにたかめることにな る。うつ状態では思考の進みが悪いために、特に患者が高齢である場合には、痴呆症状と間違われやすい。うつ病では知能が一見低下しているようにみえても仮性痴呆である。

7.診断

 うつ病の診断基準を表に示す。鑑別診断として重要なのは抑うつ神経症であ る。抑うつ神経症は内因性うつ病と比べて@抑うつ気分は軽く、あまり深刻で ない、A日内減変動がみられない、B不安、焦燥感が強く、心気症状が目立つ、C自責感や罪業感に乏しい点で区別が可能である。また、性格的にも内因 性うつ病とは異なっている。

8.治療

a薬物療法
 抗うつ薬が症状に応じて使用される。対症的に抗不安薬や睡眠薬も併用されることが多い。

b電気ショック療法

9.うつ病と歯科診療

@多くは向精神薬を投与されているので、投与する薬物の相互作用に留意する。

a.MAO阻害剤
 交感神経興奮剤を使用すると著しい血圧上昇を引き起こすので、アドレナリン含有 局所麻酔薬の使用は禁忌。
b.三環抗うつ剤
 三環抗うつ剤および四環抗うつ剤はカテコラミンの効果を増強するので、アドレナリン含有局所麻酔薬の使用は最小にすべきである。

A向精神薬の副作用としての口腔内の不定愁訴を訴えることが多い。
B向精神薬による錐体外路系障害ににより、舌や咀嚼筋の不随意運動をみせる。
C循環器系に与える影響が大きいので、エピネフリンなどの投与を避ける。
D治療の場や医師ー患者関係の中で、過剰な適応を見せることがある。
E治療への「励まし」は、例え治療の場だけのものであっても行ってはならない。

ー仮面うつ病についてー

 本来うつ病であるが、定型的なうつ状態を示さず、他の精神症状や、身体症状が前景に出ている。心身症との区別が困難な例が多い。

<参考文献>

  精神医学第2版       医学書院

  臨床精神薬理学       南山堂

  歯科医学大辞典(縮刷版)  医歯薬出版

  有病者歯科診療       医歯薬出版

  有病高齢者歯科診療のガイドライン    クイッテンセンス出版

  対策精神科         金芳堂     

  チャート精神科       医学評論社

  有病者の歯科診療1981歯界展望別冊  医歯薬出版 


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